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読書記録とか。

モードの迷宮~試される妄想力~

大阪大学総長を務めた方が筆を取った、極めて真面目な書籍です。

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モードの迷宮/鷲田清一

今回はファッション関係の文庫本。
頭の先から爪先まで日本を代表するトップブランド、ファーストリテイリング社ファッション(UNIQLO・GU)で買ってきたぜ☆
今なお、増刷されている名作で、少し前にWWDというファッション週刊紙のラスト面で紹介されていたので、読んでみた。

感想は……
『エロティック、言いすぎじゃね? いや、何事もエロティックへ繋げすぎじゃね?』
── 完!

いや、絶対言いたくなるって!
元々は雑誌の連載で、それらを纏めたものだそうな。 参るぜ、なんなら SMファッション についても極めて学術的な視点で語られちまってるんだもんな! 見出しで!

不純な煩悩をさらけ出す悪い読者にとっては哲学的な内容も相まって、ただただ目を滑らせるような文章が続いたりもするんだけれど、結局終始『決着のつけられない、そして変遷しつづける曖昧な自己』とファッションを結びつけた……って感じかな。
パスカルがものすごく引用されてる。 そうこれはたぶん哲学書
エロティックを語るのも哲学視点だから……!
(ファッションとエロスは切っても切れねーなっていうタマゴニワトリな話でもあるけど)


真面目に、細かく行きましょう。


全編に渡り、『モード系』等に代表される『モード』という言葉を軸にファッションと〈わたし〉を紐解いていく。
喜びが臨界地点を超えると白けてしまうように、物を見るときに近すぎても遠すぎても正しい輪郭をとらえることが出来ないように、モードは極点に定まらない、常に揺らぎ続けるディスプロポーション
これは、そもそもファッションの守り続ける『プロポーション』が本来細部に手を加えるだけで全体の修正を要するものと相反する概念である事から口火が切られる。

我々はメディアや社会規範が作り上げた『こうあるべき』『これこそが道徳』ひいては『こどもらしさ』『自己同一』に雁字搦めにされ、こうした『不在の理想プロポーション』を目掛けて、時に身体という犠牲を払いながら変容し続けている。
こうしてモードは常にイニシアチブを持ち、厄介なことにコレは目まぐるしく変化する。
例として、この書籍の大半が集約されているといっても過言ではない表紙── コルセットを身につける女性と、こうした女性たちを取り囲んでいた社会、視線、何より彼女たち自身等が取り上げられる。
『ファッションに自己の身体を寄せる』という心身の拘束性はグリム童話版の『シンデレラ』も引用されて語られる。

そして、中核である〈わたし〉については
『私達は自分の顔を鏡越しでしか見ることが出来ない』
『素敵な〈わたし〉のイメージを裏切らないように』
『開かれた無限の可能性を自ら〈何か〉になることで縮減させ』
『スーツやユニフォームを〈正しく〉纏う事で可視性のコード化を呈し、ひとつのイメージを身に纏う』
等など、著書のフィールドであろう哲学が炸裂している。 表現は良くないが、哲学の地雷地帯といってもいい。
要は、自分自身とは何者かであるようで何者でもない、その狭間を常に往来している、ここでもやはりモードが先にありきの自己だ。

138Pには、1989年初版ながら、今の時勢にぴったりな話題があった。
マスクが『衣服の隠蔽性が最も極端な形で発動するもの』として例に挙げられていた。
〈わたし〉の存在を匿名化し、もはやモードが『私は誰か?』という人類の主題で遊んでいるのだとバルトの文言を「モードの体系」より引用して語る。

なぜ人はファッションに取り付かれるのか?
明日には今の最旬ファッションが廃れ、ダサいものに変容しているかもしれないものを追い求めるのは何故なのか?
コルセットや纏足、歩く機能性を棄てたハイヒール、暑苦しいワイシャツの第一ボタンやネクタイ、長すぎるスカートの丈等、身体を痛め付けてまでモードに縋るのは、他者から見た自己であり、社会に自己の居場所ともいえる座標を探す自己であり、『ありのままという自分がありえないないから』と鏡に映る自分が納得いく姿になるまで鏡の中の虚像を見る『自己』を守りたいから、なのかもしれない。

だいたいエロに直結して書かれているページも多い。
あと、販売員が読んで明日から使えるトリビアみたいなのはない。 寧ろ、ここにあることを紹介したら製品売れなくなるので口にはしない方が良いかもしれない(笑)
ただ、『モードってなんやねん?』という質問にはまあ……『その時代にドンピシャな存在』と置き換え、さらに『流行』という言葉に集約されるんだろうか。
モード……世知辛く儚く永久の迷宮を作り出す罪深い概念やね。



※解説ページで元同僚である植島氏は著者との対面を『端正な顔つきをしているが、髪の毛は薄く、』と、モードという言葉とは無縁なワードを交えながら紹介しているので思わず表紙の著者写真まで戻っちゃったよね。 ……狙ってるよね?(笑)

※全身、UNIQLO・GUな〈わたし〉に響いた言葉は以下です。
『皮肉なことに、ファッションに無関心な人ほど " 流行服 " で身を固めているようで、様式に拘るという本来の意味で、彼らこそ最もファッショナブルな種族なのかもしれない』

ありがとう、ファーストリテイリング
これからも『ファッショナブル』の提供をヨロシクお願い致します。

※一方で『服被り』についても言及されているので、『ファッション』って人の作る時代や精神に左右されるな……と感心したりね。 うん。

※あらゆる意味で想像力及び妄想力が試される気がします。 イメージ大事。

ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ

2020.06.01 現在、アフリカ地域で度々農作物を蹂躙し、ヒトの生活に猛威を振るってきたサバクトビバッタの大繁殖の歯止めが利かず、ついに日本でもニュースの話題に登るようになった。

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ウルド昆虫記
バッタを倒しにアフリカへ
(前野ウルド浩太郎 著/光文社)

オリジナル版は新書(光文社)で、2017年に発表された『バッタを倒しにアフリカへ』、毎日出版文化賞特別賞、及び、新書大賞を受賞した知る人ぞ知る名著。 こちらは児童版ではあるが、新書の内容そのまま。(+追加エピソード)
漢字にルビ振りを行い、やや難しい単語には註釈を置いている。
そう、例えば、「胸キュン」「フレンチキッス」「できる、できるぞ」とか。 その他80・90年代の歌の歌詞とか。笑

現在のサバクトビバッタの話題性からか、こちらの著書がインターネットでお勧めされているのを度々目撃。
元々、著者の研究内容についてはナショナルジオグラフィックの連載特集で知ってはいたけれど、本は読んだことないな~、とこの機会に買いに走りました。

内容は……
『バッタの話、意外と な い 』

バッタの生態そのものについての話は意外となかった……!
虫の話はもちろん随所に出てくる。 バッタ以外にもゴミダマことゴミムシダマシの話とか、フンコロガシとか、砂漠地域特有の生態系を垣間見ることはできるけれど、約400Pもある内容の大半は、研究者(ポスドクといわれる大学院の博士課程を卒業した博士)の苦労話。

著者は幼少の頃から昆虫を愛するむしとり少年。 大学・大学院でも迷わず昆虫学を専攻し、中でもサバクトビバッタを専門としていた。
だが、日本ではバッタの研究はさほど重要視されていない等々で就職の壁にぶちあたる。
そこで、目を付けたのがモーリタニアというサハラ砂漠に面するアフリカの一国。
モーリタニアおよび周辺地域では、深刻なバッタ被害に曝され、農作物だけでなく、少なくとも年3億、バッタの群れが巨大になれば570億にも上る費用捻出もあり、経済的な打撃も受けていた。
……にも、関わらず、現地でもサバクトビバッタの生息についての研究は頓挫したまま殺虫剤がひたすら散布され、殺虫剤被害で生態系や遊牧民にも影響が出ていた始末。(良い事がまるでない)
モーリタニアでの広大な砂漠を舞台に、ターゲット(サバクトビバッタ)を追い、世界を背追って研究に挑む日本人の奮闘記。

ホントに、奮闘記。笑
サバクトビバッタの生態について専門的な知見を得たいのならばナショジオの連載特集を見た方が手っ取り早い。
ただ、砂漠での生活について垣間見ることは可能なので、異文化を読む感じに考えをシフトすれば実に楽しい。 というか、こっちの目的が普通かと思われる。
エジプトでは緑茶に砂糖とハッカを入れる飲み物があるけれど、この本(舞台はモーリタニア)でも、度々このお茶が出てくる。 おそらく『緑茶に砂糖』は砂漠文化なんだろうな~と。 モロッコでも飲まれるらしいね。
あと、一瞬だけれど塩の話も。 サッファという砂漠の塩水地帯。 元々砂漠は海だった所が干上がったので、場所によっては塩坑があったりするんですよね。
それから、意外とオアシスは汚い……等々。夢が崩れる笑(これは場所によるかもだけれど)
少しシビアな内容では、線路を越えたら地雷地帯等、砂漠に埋もれた黒い歴史も顔を覗かせた。

昆虫については、サバクトビバッタだけでなく前述のゴミムシダマシやフンコロガシについても解説染みない程度に説明がなされているので、厳しい砂漠という環境で生きる独自の生き物たちの不思議をほんの少しだがつまめる。
著者もあとがきで説明していたが、サバクトビバッタの生態については、今後研究内容を論文にまとめてから改めて一般向けに発表したいとのこと。
そうなると、ジャスティン・シュミット博士の著書『蜂と蟻に刺されてみた』に近い構成内容になるのかなーと密かに期待したり。
(個人的には中盤で出てきた毒バッタのが気になる。 ちなみに毒バッタ……本文では不本意だろうが実に可哀想な末路を辿る)

PRESIDENT社が後半から活躍するけれど、確かにビジネスマインド的な雰囲気も感じる。 著者は有り合わせの素材(本の内容的には現地での体験や人脈)を調理するのが非常に巧く、ピンチの切り抜けられる能力が非常に高い。
それは単に不透明な自信を掲げているからではなく、裏付けのあるエビデンスを数手隠した上で怖じけなく問題に立ち向かっているから。
バッタに食べられたいと全身緑のタイツを着用してバッタの群れの中を立ち尽くすみたいな他者からみれば狂気染みたこともしているものの、決してただの無謀な研究者ではないな、と印象を受けた。
(京都大学・白眉プロジェクトのくだりなんかを見ていたら大胆なようで計算高いこと考えてるな……と思う)

今現在、猛威を振るうサバクトビバッタの生態について特化して知りたいのならこちらではなく、著書である前野ウルド浩太郎博士がメインで特集されているナショナルジオグラフィックの『研究室に行ってみた』(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20140114/379960/?ST=m_labo ) の連載をオススメ。
一人の日本人が世界を舞台に戦うノンフィクションの序章を読みたいのなら、こちらがオススメ、かな。

子どもにウケる科学手品 ベスト版 ( ベルヌーイの定理 とは )

新装になったよ、ブルーバックスからドン!

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著者は故・後藤道夫氏。

『手品』とはいうものの、身近にあるものを実験素材にして科学的事象を確認できる実験ハンドブック。
水を入れたビニール袋に鉛筆を勢い良くぶっ刺していく という科学手品から紹介されるバイオレンスな幕開けで笑った。

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旧版の表紙カバーも飾っている。 愛らしいリボンのラッピングと対照的なぶっ刺され感がミソ。
( 画像は楽天のサイトから借りました )

これは『ポリエチレンは熱で収縮する』という特性 ( ここでは摩擦熱 ) と、水の表面張力を利用している。 中の水が零れてこないのがキッズを不思議へと誘う。

別の紹介で、一万円札のインクに磁石を反応させるという項目を実際にキッズ相手に試してみたら、確かにウケてた。
万札を横に折って爪楊枝でバランスを取り、サイド両端に磁石を近づけて反応させる……というものなんだけれど、これは紹介されている中でもかなり必要材料が高額な実験かと思われる。 なんたって、福沢諭吉 ( 現在の一万円札の肖像画の人物 ) を横折りしちゃうからね。 そのまま爪楊枝を軸にして札を回すし。
最低一万円する貴族の遊び……!( 違う )

ヤジロベエシリーズの猛攻や懐かしの砂鉄集め等色々あったけれど、所々に科学的用語が散らばる。
例えば、力のモーメント。 二つの力の釣り合いは支点からの距離が重要だというもの。

そして、ベルヌーイの定理
これが本当に良く出てきた。 わざわざ別ページに解説項が追加され、『流体の中心では気圧が下がる』ことが執拗に説明されている。
ドライヤーの下からの風に浮かぶピンポン玉。 ストローに窓穴をあけると、ストローに通した紐が円を描くとか。
他にもまだまだ紹介されていた。
だが、何となく違和感を覚えたので調べてみることに。

一般社団法人日本機械学会 流体工学部門さんから全否定されてるじゃねーか!!!
( http://www.jsme-fed.org/experiment/2017_10/005.html )

別件で、飛行機が離陸する際の揚力についても紹介されていたが、こちらも別サイトで全否定されていた。 が、JSMEさんのサイトではベルヌーイの定理については同意とも不同意ともとれる曖昧な回答にも見えるものが掲載されていたり……。
そもそもの情報が錯綜としている。
こうなってくるとベルヌーイ初見者にはややこしい。 匙を投げたくなる案件。
だそり物理習ってないねん、もうちょっと手加減してくれ。

と、いうわけで得た情報を簡単にまとめておくと、ベルヌーイの定理とは、流体が同じ線上にあり、尚且つ最初に持っているエネルギーの総和が変わらない、流体のエネルギー保存の法則
つまるところ、その流体が同一線上になかったり、外部からエネルギーが余分に与えられたり、逆に外部に奪われたりすると、そもそも成り立たない。
物体Aに対する『周囲の空気』の流れをベルヌーイの定理として持ち出すのが間違いということ。( 一直線上にないから )

確かに『科学実験』でそういった事象は確認できるけれど、『ベルヌーイ』を持ち出すのは誤り。
折角改定して新装したんだったら論争あるこういった文面はカットして、旧版の読者に向けてはなぜカットしたのか? を明確にすれば良いと思う。 カットしないんだったらしないで、ネット上に落ちてる異論記事に対して突っ込むべき。
じゃないと、この本がきっかけでベルヌーイの定理に興味を持っても『違う、誤りだ』と別から指摘されるだけになり、結局どれが正しいのかわからないままに終わる。
いや、マジでこの新装までにどこからも意見が飛んでこなかったの?

コラムにあるように、偉大な発明家・科学者たちが幼い頃の遊びなどから科学に関心を寄せていたように、この本に紹介される数々の『手品』の中には子ども達の未来へのエネルギーを励起するものだってあるかもしれない。
そして、それを願ってわざわざ新装までしたんだろうとも思う。 クリスマスの時期が新装版の初版ということは、ブルーバックスから子ども達への科学への興味というプレゼントともとれる。
その心意気は素晴らしいんだけれど、ベルヌーイを調べてしまったせいで、後味の悪い一冊になってしまった。
これって、本来はあってはならないことだと思うのよね……。

実験自体は面白いものも多く、実際に手品に使われるものもあったりするので、ベルヌーイにさえ触れなければ楽しめる。 子ども達は科学の不思議 ( といっても全て法則なんだけれど ) を見るだけでワクワクするはず。 数滴の牛乳で濁らせた水を傘用のビニール袋に詰めて口を縛り、寝かせて端から懐中電灯を当てて観察する光の波長と微粒子 ( ここでは牛乳分子 ) の饗宴とかは同じビニールに水を詰める行程でもバイオレンス感はないし、なんならその結果はなかなかオシャレ。 やってみたくなる。

それゆえに、前述の定理の件が惜しいなあ……と思うタイトルだった。

エルマーのぼうけん ( 歯磨剤に脱線した )

児童書。 とある理由でTwitterにてタイトル出しでツイートしたところフォロワーさんから回答があり、『オススメですよ!』と教えられ、早速その翌日に書店で買ってきた。
PDCAサイクルとは昨今でも良く言われるけれど、P→Dまでの流れだけは早いんだよな、自分。

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著者はルース・スタイルス・ガネット 氏。
絵はルース・クリスマン・ガネット 氏。
そして翻訳は渡辺茂男 氏。

このブログに記事として載せたということは、自分でも読んでみたということ。 一日で一気読み。 ひらがなばっかりだけれど、ねずみの台詞以外はすんなり読めた。 訳者の仕掛けにまんまと引っ掛かった。 楽しい訳です!


内容は、空を飛ぶことを夢見る一人の少年 ( エルマー・エレベーター/主人公 ) が、老いた猫から教えられた情報を元に、猛獣たちの住む島で捕らわれてこき使われている哀れな竜を助けに行くという筋。
そして紆余曲折、猛獣たち( と一部の人々 ) を騙しまくり ( 全部が全部ではないけど ) 、最終的には竜の背に乗り空を飛ぶ夢を叶えるという冒険譚。

尚、落語世界の住人と良い勝負できそうな登場人物群で、例えば表紙のエルマー君は丁度たてがみを手入れしたいと騒いでいたライオンをいい気にさせてる所。 落語でこうした間抜けな光景は良く見られる。


個人的には『サイ』の項目が印象的だった。
サイは『昔は真っ白だった角が黄ばんで自慢できるものがなくなった』と嘆き泣いていたので、エルマーは持ち出してきた歯ブラシと歯磨き粉で角の一部を白くしてやり、それらの道具をサイに明け渡すことで難を逃れる……という短い章。


ここで、いくつかの疑問が湧いたので調べてみた。


①サイの角、ヒドロキシアパタイトなのか……?

歯や骨の主成分はヒドロキシアパタイト。
そして……サイの角の主成分は……ケラチン!!

サイの角はタンパク質の繊維の塊だった。
このケラチンは爪とか髪とかの主成分。

サイの角が歯や骨に近いのではなかったと、恥ずかしながら初めて知った。


②では、ケラチンを歯磨き粉で磨くと本当に白くなるのか?

サイの角の主成分はケラチン。 これは歯の主成分ではなく、爪や髪の主成分。
というわけで今回は爪を引き合いに出し、まずは爪がどのように着色するのか探ったところ、内的要因 ( 疾患によるもの ) と、マニキュアなど外的要因によるものとがあった。
内的要因の場合はビタミン誘導などの治療を継続して行い長期的な経過観察する必要があるため、今回のサイの案件は『歯磨き粉で磨くと直ぐに磨いた部分が白くなった』事から推察しても、外的要因に起因すると思われる。


次に、歯磨き粉に含まれる成分だが、エルマーがごく一般的に流通している歯磨き粉を所有していたと仮定して、某社の某商品を例に持ってくる。

(※一部略)
清掃剤 無水ケイ酸A
発泡剤 ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液、POE硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸Na
粘結剤 キサンタンガム、アルギン酸Na
洗浄剤 テトラデセンスルホン酸Na
薬用成分 フッ化ナトリウム(フッ素)
コーティング剤 ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド

白くするという意味では、脱色というより研磨に近い気もする。
爪に歯磨き粉を塗るとどうなるかも検索してみたところ、実際に美容系のまとめ記事がヒットした。( 出所が怪しいアレなタイプだったけど )
民間療法の域を出ていないがそうした事例はあることにはあり、外的要因の汚れはそれとなく落ちるらしい。


③外的要因の汚れが歯磨き粉でそれとなく落ちる方向で更に考えてみると? ( というか、作中で汚れが落ちてるのでこの結末は変えられない )

主成分がヒドロキシアパタイトである歯の硬度は6~7。
主成分がケラチンの爪の硬度は2~3。
そして実際、サイの角も実は脆く、木で擦って形が整う程度には削れる。
ならば、硬度約7の無水ケイ酸 ( シリカ ) を配合している歯磨き粉なら、歯よりも脆い爪・角に効果を発揮するかもしれない。 表面を削り取るという意味で。


というわけで、サイの角を一般的且つ安価な歯磨き粉で磨く場合、その汚れが外的要因によるもので且つ角の奥に沈着していなければ削り取れる可能性あり。
サイの手入れ不足。 と、結論した。


超超超余談。
『歯磨剤における無機清掃基剤概論』( 山本 高司 著/ネットで拾ったpdf. ) によるところ、無水ケイ酸はフッ素との相性がとても良いようで研磨剤としてメジャーになったらしい。
ただ、硬度が高いので粒子の大きさを調整し、人の歯にとって安全なレベルを確認した上での研磨力に抑えられてはいる。
歯磨剤でエナメル質はそんなに磨耗しない。
象牙質は磨耗するが、歯磨剤の研磨力との相関はあまりなく、別の要因だとされている。
実際、水だけのブラッシングの継続では100%の事例でステインが歯に沈着するが、無水ケイ酸を配合した歯磨剤でブラッシングを継続した場合はステイン沈着のレベルが実際落ちるんだそうで、無水ケイ酸のvsステイン時のアビリティってのはそれなりにある様子。



話を戻して……いや、でも本当このサイの項目はこの他にも『過去のただひとつの栄光にしがみついている姿』を反映させているようにも見えるし興味深い。
欲に目が眩む虎たちや、自分が気取るが故にエルマーに気がつかない=周りを見れていないライオンの母親など、何となく偶像的な香りも感じた。

それにしてもまさか児童書で歯磨剤を検索するとは思わなかった、手強かった……。
ラストのヒートアップはなかなかだったし、エルマーの度胸もなかなか。
ハッピーエンドだと思う。
ギミック性のある児童書だった。

ロウソクの科学

というわけで、M・ファラデー氏Ver.

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翻訳は竹内敬人氏。 硬派な訳で淡々とした感じがあるけれど、これはこれで感情豊かになるシーンが強調されて緩急ある読みごたえだった。

ロウソクの科学。
12月といえばコレと落語の『時そば』だろうと考えて、今回はこちらの本を再読していたワケだけれど、今年( 2019 ) のノーベル化学賞・受賞者の吉野彰教授が少年期に読んで影響を受けた本だと紹介したようで、今まさにアツいHOTなタイトルになっていた。
本屋に行けば妙に同タイトルの書籍が目立つと思ったら……!
というわけで、外から見たら完全に流行に乗ってる形になっているけれど、旬なモノは旬なうちって言うし結果オーライで。

年末から年始にかけて行われるクリスマス公演の講義録。 1つの講義は全6回に渡り、中には元旦に行われることもあった。
となると、クリスマスってか全体的にニューイヤー講義なのでは? というツッコミは無しで。
このクリスマス公演は今でも続いているようで、青少年少女の為と銘打っているものの、老若男女貴賤問わず誰が観客になっても良い科学講義。

『科学の灯火は燃え続けなければならない』
と口火を切るロウソクの科学。
ロウソクが燃えるに適した形とその理由、(熱による上昇気流による空気=酸素の供給) から始まる講義はロウソクから得られる『水』に舞台を変え、その後はいよいよ元素レベルにまで話を展開させていく。
特に酸化還元反応には力を入れていて、ここではカリウムが大活躍する。 手に入りやすそうな鉄も大いに活躍するけれど、締めはカリウム
カリウムは当時新元素だったのもあって、少年少女大きいおともだち達も食い入るようにカリウムの火を見たことだろう。

兎に角実験例が豊富で、ボルタ電池を用いるような臨場感のある大がかりなものから、瓶詰めの二酸化炭素の上にシャボン玉を置いてみるなどマジシャン的な科学の側面、そして『ロウソクの火に冷えたスプーンを翳したら水が出きるんやで、おうち帰ったら見てみるんやで』(※原文はもっとちゃんとしてる) 的な庶民の生活感溢れる展開まで網羅してる。
科学が遠くも身近であることを体現しようとする姿勢がどの章にも表れているのが印象深い。
途中、ロウソクから離れて『水』に1日の講義を費やすことになるけれど、ファラデーの生真面目な性格が出ていると思う。 その後に涌き出てくるであろうスタンダードな疑問を確り拾う為に水を用いた電気分解や物質の三態等の説明は必要不可欠。 近道をするための遠回りで、科学の講義としては勿論、プレゼン力そのものが高い……たまにそれは言わないでくれってのもあるけど。 たまに。
『貧しい人の家の造りが衛生的じゃない』とか。 もーちょいマシな表現なかったんか。

最終的には炭素が人の生活にとって如何に優れた燃料であるか、そして『呼吸』を題材にして、この巧く出来ている地球上の生態系サイクルについて語り、『来るべき皆さんの時代において、ロウソクのようになってほしい。 光輝き、ロウソクのように世界を照らしてほしい』と語りかけて幕閉じ。

ロウソクに秘められた宇宙の全てを支配する諸法則の欠片を拾い集め、時に面白おかしく、しかし常に真剣に語るファラデーの講義録でした。


に、加えて!


プチ伝記が収録されている。 下級生まれで学校もロクに出ていないファラデーが当時階級社会の厳しいイギリスで ( これは今もだけれど ) ここまで大成できたのは間違いなく本人の努力と洞察力の賜物だとは思うけれど、電磁気研究の盛り上がりという時代背景と周囲の人々の理解・協力がある。
最終的には自身の人柄そのものを育てていたことがファラデーの武器だったんだろうと推察する。
理解や協力・環境は勝ち得たものでもある。

尚、ファラデーは恋愛においても情熱的だったようで、時折、恋人時代に妻のセアラさんを怯ませていたらしい。
気になるわ、その辺。 もっとピックアップしてくれ。 どう迫ったの? デートの締めにカリウムでも見せて『このカリウムのように僕は君の吐いた息でさえ燃え上がることが出来るんだ。 爆発するくらい過激にさえなり云々』とか言っちゃった系? ( ※カリウム二酸化炭素の中でも燃焼出来る/第六章で実際にカリウムの欠片を爆発させてる )

冗談はこれくらいにして、ファラデーといえばそりゃ電磁誘導だけれども、たまには電磁誘導を偶然見つけちゃったエルステッドさんのことも思い出して……。 実は現象だけは先に見つけられていたんだよー……という一言くらいあっても良いと思うの……。それでファラデーの業績が陰るわけでもないから。

ちまちま読んでいたから完読までに日を要したけれど、楽しかった!

たけしの人生相談 悩むの勝手

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二回連続たけし本ドン!
何故か出版日が12月31日。( 発売日は13日。 ネタ? ミス? 謎 )

今回はおバカ&痛快な感じで。
視聴者からのお悩み相談にラジオパーソナリティが答えていくみたいな、よくあるスタイル。

※質問も回答も下ネタ三昧。

でも、じっくり紐解いていくと『質問に答える気はない』としつつも、ちゃんと答えているものの方が多い。 言い換えるなら、回答に一定の精度がある。

『真面目に回答する気はない。 だいたい、タダで他人に悩みを解決してもらおうって根性が気に入らない』
という前書きからスタートするお悩み相談本。
とはいえ、たけし師匠の頭の回転の速さがキレッキレで圧倒されるし、一転、くだらなさすぎて笑えるし、実のところ質問の真偽そのものからして怪しいし……でわりとクレイジー
たけし師匠も『お前コレ、嘘だろう! お前の漫談を見せてくるんじゃないよ!』『真面目な質問は伊集院さんに持っていけ』等と突っ込んでるシーンがある。これにしたって、怒ってる訳じゃないのがまた楽しい。

薄毛で悩む青年に口頭一番『仏門に入れ』だとか、 ( 今現在の仕事の ) 営業成績を上げたいが笑顔をうまく作れない事に悩む彼には『今の仕事をやめて交通整備になれ』だとかユニーク且つ大胆な回答でザクザクぶったぎっていく。
営業成績云々のはたけし師匠の回答に納得してしまう。 何より『そんなん知らんがな』で終わらせず、ちょっとそっけなくも見える回答をしつつでたけし師匠の切れ味の良さが見えて印象に残った。


悩み相談を受けている側が深刻になると悩みが深まる一方になってしまうし、なんなら受ける側まで悩んじゃって堂々巡りになりMP切れを起こし共倒れすることさえもある。
『真面目には答えないけれど、精度をもって "適当" に答える』というたけし師匠のスタイルは、質問そのものにある 『①悩むに値するか』 『②原因がどこにあるか』 『③解決の糸口があるか』 『④その後の予測』……という多様な項目を瞬時に判断して、更にどのポイントにユーモアを置いて答えるかを見分けないとならないので、簡単には真似出来ないのが悔しいけど、楽しかったー。


※引用ではなく覚書だけれど『芸人ってのは勝手に親元を飛び出して、その後に親がテレビをつけてたら飛び出していった息子が映ってた……それが久し振りに見る息子の姿……ってくらいじゃないと』と語るたけし師匠、芸事に対しての姿勢が見える名シーン。 文章だけなのに、気迫を感じる。
※イタコと占い師を集めて馬券を買い、全部外れたという回答が一番笑った。 たけし師匠わりとイタコネタ多いよな? 何の因縁なんだろうか。
※アプリゲームが出るらしい。 いきなり広告ページが出てきたんで笑う。 尚、事前予約特典があるようで、時代の流れをしっかり踏襲しているあたりちゃっかりしている。
板東英二さんの植毛脱税もたけし師匠が生きている限り言われ続けそうな……。笑

芸人と影

ビートたけし師匠新刊! 週刊ポストのアレ!

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芸人と影 /ビートたけし
小学館新書

別の本を買いに行ったら偶々宣伝されていたのでこちらも買ってきた。 そろそろ来るかなとは思いつつもなかなか見かけず……少し前に発売していた、出遅れた。
毎年、楽しみにしてて、今年もやっぱり楽しかった……今回も一日で一気読み。
一年の話題を面白おかしく振り返る世界のキタノこと、ビートたけし師匠の週刊ポスト連載ネタ新書!

芸事に携わる人の粋等を垣間見る事が出来るので読んでて勉強になることも多い。
ああ、そんな考え方があるんだ、って。

『芸人は芸で笑わせなきゃならない。 何もしないで笑われたり、世間から同情を買ってどうする』
『(とある元プロ野球選手に対して) ヤクザに憧れるんじゃなく、ヤクザから憧れられる存在にだってなれたはずなのに』

厳しくも優しさを感じる視点が参考になる。
もちろん、全てに同意出来るわけではない ( どうせやるならチンチロリン増税~の下りとか。 いやいや税金に博打て?! まあ勿論ネタのひとつなので深刻に捉える方が間違いではあるしネタとしてみたら面白い ) けど、72歳という年齢を感じさせずに第一線に出続けている人の言う言葉にはじんと来るものも多い。

『オイラだって、破天荒してる時間よりもネタを考えたり本を読んでいる時間の方が多かったかもしれないぜ』

かなりサラッと書かれてるけれど、この通りなんだろうと思う。
テレビ番組の平成教育委員会はたけし師匠が ( 余暇に ) 私立中学の入試問題を解きまくっていた時に着想を得て構成を練り、結果、『大人には意外にも難しく、考え方が柔軟な子どもは結構解けちゃう問題ってのがヒットした』んだね。
たけし師匠は自分は何もせず今の地位を獲得したわけではなく、今もご自身でがむしゃらに活動なさっていてその点を本当に尊敬する。
というか色々と頭の回転が良いんだよなあ、真似できない。 ただ、その裏には試行錯誤と日々の情報収集があるんだろう。

色んな事件があったなあ……。沁々。
吉本興業の話が皮切りで序盤はかなり真面目な書き出しだった。 闇営業の件、かなり真剣に記載されてる。
中盤以降はいつものたけし節。 平成を振り返るシーンでは『船場吉兆ささやき女将』とか出てきたのは笑ったけど。 もう忘れてたわ……今は息子さんが北新地に店だしてるのね、そうだったのか……。
STAP細胞だとか懐かしい話もチラッと出てたけど、その年代のレジェンドは野々村真氏だそうな。
野々村さんはたけしさんが生きてる限りネタにされそう。 個人的には佐村河内氏のがレジェンドなんだけれど、芸人の視点からすればやはりあの『泣き』がポイント高いんだろうか……?

週刊ポストと提携しているシリーズの新書は、その週刊誌での連載が元ネタなので、当時のニュースや芸能人・著名人の名前などを覚えていないと理解できないネタも多い。 基本は話題になったものが大半なので『そんなこともあったあった、』とサクサク読めるけれど、例えばこの一年は日本に居なくてニュースわかんない! だと、読み進めるのはやや難しいシーンあるかも。


明日もビートたけし名義で新書を発売するとの事なので書店見てこよう。


※故・内田裕也さんの話は毎度毎度面白すぎる
※『寿司屋でイクラ頼むのにシャケのベイビーって絶叫するんだから』は、さすがに笑う
※これも決して意地悪で故人を紹介している訳ではないのが伝わってくる。 読んでて少し寂しかった