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読書記録とか。

エルマーのぼうけん ( 歯磨剤に脱線した )

児童書。 とある理由でTwitterにてタイトル出しでツイートしたところフォロワーさんから回答があり、『オススメですよ!』と教えられ、早速その翌日に書店で買ってきた。
PDCAサイクルとは昨今でも良く言われるけれど、P→Dまでの流れだけは早いんだよな、自分。

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著者はルース・スタイルス・ガネット 氏。
絵はルース・クリスマン・ガネット 氏。
そして翻訳は渡辺茂男 氏。

このブログに記事として載せたということは、自分でも読んでみたということ。 一日で一気読み。 ひらがなばっかりだけれど、ねずみの台詞以外はすんなり読めた。 訳者の仕掛けにまんまと引っ掛かった。 楽しい訳です!


内容は、空を飛ぶことを夢見る一人の少年 ( エルマー・エレベーター/主人公 ) が、老いた猫から教えられた情報を元に、猛獣たちの住む島で捕らわれてこき使われている哀れな竜を助けに行くという筋。
そして紆余曲折、猛獣たち( と一部の人々 ) を騙しまくり ( 全部が全部ではないけど ) 、最終的には竜の背に乗り空を飛ぶ夢を叶えるという冒険譚。

尚、落語世界の住人と良い勝負できそうな登場人物群で、例えば表紙のエルマー君は丁度たてがみを手入れしたいと騒いでいたライオンをいい気にさせてる所。 落語でこうした間抜けな光景は良く見られる。


個人的には『サイ』の項目が印象的だった。
サイは『昔は真っ白だった角が黄ばんで自慢できるものがなくなった』と嘆き泣いていたので、エルマーは持ち出してきた歯ブラシと歯磨き粉で角の一部を白くしてやり、それらの道具をサイに明け渡すことで難を逃れる……という短い章。


ここで、いくつかの疑問が湧いたので調べてみた。


①サイの角、ヒドロキシアパタイトなのか……?

歯や骨の主成分はヒドロキシアパタイト。
そして……サイの角の主成分は……ケラチン!!

サイの角はタンパク質の繊維の塊だった。
このケラチンは爪とか髪とかの主成分。

サイの角が歯や骨に近いのではなかったと、恥ずかしながら初めて知った。


②では、ケラチンを歯磨き粉で磨くと本当に白くなるのか?

サイの角の主成分はケラチン。 これは歯の主成分ではなく、爪や髪の主成分。
というわけで今回は爪を引き合いに出し、まずは爪がどのように着色するのか探ったところ、内的要因 ( 疾患によるもの ) と、マニキュアなど外的要因によるものとがあった。
内的要因の場合はビタミン誘導などの治療を継続して行い長期的な経過観察する必要があるため、今回のサイの案件は『歯磨き粉で磨くと直ぐに磨いた部分が白くなった』事から推察しても、外的要因に起因すると思われる。


次に、歯磨き粉に含まれる成分だが、エルマーがごく一般的に流通している歯磨き粉を所有していたと仮定して、某社の某商品を例に持ってくる。

(※一部略)
清掃剤 無水ケイ酸A
発泡剤 ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液、POE硬化ヒマシ油、ラウリル硫酸Na
粘結剤 キサンタンガム、アルギン酸Na
洗浄剤 テトラデセンスルホン酸Na
薬用成分 フッ化ナトリウム(フッ素)
コーティング剤 ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド

白くするという意味では、脱色というより研磨に近い気もする。
爪に歯磨き粉を塗るとどうなるかも検索してみたところ、実際に美容系のまとめ記事がヒットした。( 出所が怪しいアレなタイプだったけど )
民間療法の域を出ていないがそうした事例はあることにはあり、外的要因の汚れはそれとなく落ちるらしい。


③外的要因の汚れが歯磨き粉でそれとなく落ちる方向で更に考えてみると? ( というか、作中で汚れが落ちてるのでこの結末は変えられない )

主成分がヒドロキシアパタイトである歯の硬度は6~7。
主成分がケラチンの爪の硬度は2~3。
そして実際、サイの角も実は脆く、木で擦って形が整う程度には削れる。
ならば、硬度約7の無水ケイ酸 ( シリカ ) を配合している歯磨き粉なら、歯よりも脆い爪・角に効果を発揮するかもしれない。 表面を削り取るという意味で。


というわけで、サイの角を一般的且つ安価な歯磨き粉で磨く場合、その汚れが外的要因によるもので且つ角の奥に沈着していなければ削り取れる可能性あり。
サイの手入れ不足。 と、結論した。


超超超余談。
『歯磨剤における無機清掃基剤概論』( 山本 高司 著/ネットで拾ったpdf. ) によるところ、無水ケイ酸はフッ素との相性がとても良いようで研磨剤としてメジャーになったらしい。
ただ、硬度が高いので粒子の大きさを調整し、人の歯にとって安全なレベルを確認した上での研磨力に抑えられてはいる。
歯磨剤でエナメル質はそんなに磨耗しない。
象牙質は磨耗するが、歯磨剤の研磨力との相関はあまりなく、別の要因だとされている。
実際、水だけのブラッシングの継続では100%の事例でステインが歯に沈着するが、無水ケイ酸を配合した歯磨剤でブラッシングを継続した場合はステイン沈着のレベルが実際落ちるんだそうで、無水ケイ酸のvsステイン時のアビリティってのはそれなりにある様子。



話を戻して……いや、でも本当このサイの項目はこの他にも『過去のただひとつの栄光にしがみついている姿』を反映させているようにも見えるし興味深い。
欲に目が眩む虎たちや、自分が気取るが故にエルマーに気がつかない=周りを見れていないライオンの母親など、何となく偶像的な香りも感じた。

それにしてもまさか児童書で歯磨剤を検索するとは思わなかった、手強かった……。
ラストのヒートアップはなかなかだったし、エルマーの度胸もなかなか。
ハッピーエンドだと思う。
ギミック性のある児童書だった。