書架

読書記録とか。

ロウソクの科学

というわけで、M・ファラデー氏Ver.

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翻訳は竹内敬人氏。 硬派な訳で淡々とした感じがあるけれど、これはこれで感情豊かになるシーンが強調されて緩急ある読みごたえだった。

ロウソクの科学。
12月といえばコレと落語の『時そば』だろうと考えて、今回はこちらの本を再読していたワケだけれど、今年( 2019 ) のノーベル化学賞・受賞者の吉野彰教授が少年期に読んで影響を受けた本だと紹介したようで、今まさにアツいHOTなタイトルになっていた。
本屋に行けば妙に同タイトルの書籍が目立つと思ったら……!
というわけで、外から見たら完全に流行に乗ってる形になっているけれど、旬なモノは旬なうちって言うし結果オーライで。

年末から年始にかけて行われるクリスマス公演の講義録。 1つの講義は全6回に渡り、中には元旦に行われることもあった。
となると、クリスマスってか全体的にニューイヤー講義なのでは? というツッコミは無しで。
このクリスマス公演は今でも続いているようで、青少年少女の為と銘打っているものの、老若男女貴賤問わず誰が観客になっても良い科学講義。

『科学の灯火は燃え続けなければならない』
と口火を切るロウソクの科学。
ロウソクが燃えるに適した形とその理由、(熱による上昇気流による空気=酸素の供給) から始まる講義はロウソクから得られる『水』に舞台を変え、その後はいよいよ元素レベルにまで話を展開させていく。
特に酸化還元反応には力を入れていて、ここではカリウムが大活躍する。 手に入りやすそうな鉄も大いに活躍するけれど、締めはカリウム
カリウムは当時新元素だったのもあって、少年少女大きいおともだち達も食い入るようにカリウムの火を見たことだろう。

兎に角実験例が豊富で、ボルタ電池を用いるような臨場感のある大がかりなものから、瓶詰めの二酸化炭素の上にシャボン玉を置いてみるなどマジシャン的な科学の側面、そして『ロウソクの火に冷えたスプーンを翳したら水が出きるんやで、おうち帰ったら見てみるんやで』(※原文はもっとちゃんとしてる) 的な庶民の生活感溢れる展開まで網羅してる。
科学が遠くも身近であることを体現しようとする姿勢がどの章にも表れているのが印象深い。
途中、ロウソクから離れて『水』に1日の講義を費やすことになるけれど、ファラデーの生真面目な性格が出ていると思う。 その後に涌き出てくるであろうスタンダードな疑問を確り拾う為に水を用いた電気分解や物質の三態等の説明は必要不可欠。 近道をするための遠回りで、科学の講義としては勿論、プレゼン力そのものが高い……たまにそれは言わないでくれってのもあるけど。 たまに。
『貧しい人の家の造りが衛生的じゃない』とか。 もーちょいマシな表現なかったんか。

最終的には炭素が人の生活にとって如何に優れた燃料であるか、そして『呼吸』を題材にして、この巧く出来ている地球上の生態系サイクルについて語り、『来るべき皆さんの時代において、ロウソクのようになってほしい。 光輝き、ロウソクのように世界を照らしてほしい』と語りかけて幕閉じ。

ロウソクに秘められた宇宙の全てを支配する諸法則の欠片を拾い集め、時に面白おかしく、しかし常に真剣に語るファラデーの講義録でした。


に、加えて!


プチ伝記が収録されている。 下級生まれで学校もロクに出ていないファラデーが当時階級社会の厳しいイギリスで ( これは今もだけれど ) ここまで大成できたのは間違いなく本人の努力と洞察力の賜物だとは思うけれど、電磁気研究の盛り上がりという時代背景と周囲の人々の理解・協力がある。
最終的には自身の人柄そのものを育てていたことがファラデーの武器だったんだろうと推察する。
理解や協力・環境は勝ち得たものでもある。

尚、ファラデーは恋愛においても情熱的だったようで、時折、恋人時代に妻のセアラさんを怯ませていたらしい。
気になるわ、その辺。 もっとピックアップしてくれ。 どう迫ったの? デートの締めにカリウムでも見せて『このカリウムのように僕は君の吐いた息でさえ燃え上がることが出来るんだ。 爆発するくらい過激にさえなり云々』とか言っちゃった系? ( ※カリウム二酸化炭素の中でも燃焼出来る/第六章で実際にカリウムの欠片を爆発させてる )

冗談はこれくらいにして、ファラデーといえばそりゃ電磁誘導だけれども、たまには電磁誘導を偶然見つけちゃったエルステッドさんのことも思い出して……。 実は現象だけは先に見つけられていたんだよー……という一言くらいあっても良いと思うの……。それでファラデーの業績が陰るわけでもないから。

ちまちま読んでいたから完読までに日を要したけれど、楽しかった!