書架

読書記録とか。

子どもにウケる科学手品 ベスト版 ( ベルヌーイの定理 とは )

新装になったよ、ブルーバックスからドン!

f:id:dasori:20191230005541j:plain
著者は故・後藤道夫氏。

『手品』とはいうものの、身近にあるものを実験素材にして科学的事象を確認できる実験ハンドブック。
水を入れたビニール袋に鉛筆を勢い良くぶっ刺していく という科学手品から紹介されるバイオレンスな幕開けで笑った。

f:id:dasori:20191230010117j:plain
旧版の表紙カバーも飾っている。 愛らしいリボンのラッピングと対照的なぶっ刺され感がミソ。
( 画像は楽天のサイトから借りました )

これは『ポリエチレンは熱で収縮する』という特性 ( ここでは摩擦熱 ) と、水の表面張力を利用している。 中の水が零れてこないのがキッズを不思議へと誘う。

別の紹介で、一万円札のインクに磁石を反応させるという項目を実際にキッズ相手に試してみたら、確かにウケてた。
万札を横に折って爪楊枝でバランスを取り、サイド両端に磁石を近づけて反応させる……というものなんだけれど、これは紹介されている中でもかなり必要材料が高額な実験かと思われる。 なんたって、福沢諭吉 ( 現在の一万円札の肖像画の人物 ) を横折りしちゃうからね。 そのまま爪楊枝を軸にして札を回すし。
最低一万円する貴族の遊び……!( 違う )

ヤジロベエシリーズの猛攻や懐かしの砂鉄集め等色々あったけれど、所々に科学的用語が散らばる。
例えば、力のモーメント。 二つの力の釣り合いは支点からの距離が重要だというもの。

そして、ベルヌーイの定理
これが本当に良く出てきた。 わざわざ別ページに解説項が追加され、『流体の中心では気圧が下がる』ことが執拗に説明されている。
ドライヤーの下からの風に浮かぶピンポン玉。 ストローに窓穴をあけると、ストローに通した紐が円を描くとか。
他にもまだまだ紹介されていた。
だが、何となく違和感を覚えたので調べてみることに。

一般社団法人日本機械学会 流体工学部門さんから全否定されてるじゃねーか!!!
( http://www.jsme-fed.org/experiment/2017_10/005.html )

別件で、飛行機が離陸する際の揚力についても紹介されていたが、こちらも別サイトで全否定されていた。 が、JSMEさんのサイトではベルヌーイの定理については同意とも不同意ともとれる曖昧な回答にも見えるものが掲載されていたり……。
そもそもの情報が錯綜としている。
こうなってくるとベルヌーイ初見者にはややこしい。 匙を投げたくなる案件。
だそり物理習ってないねん、もうちょっと手加減してくれ。

と、いうわけで得た情報を簡単にまとめておくと、ベルヌーイの定理とは、流体が同じ線上にあり、尚且つ最初に持っているエネルギーの総和が変わらない、流体のエネルギー保存の法則
つまるところ、その流体が同一線上になかったり、外部からエネルギーが余分に与えられたり、逆に外部に奪われたりすると、そもそも成り立たない。
物体Aに対する『周囲の空気』の流れをベルヌーイの定理として持ち出すのが間違いということ。( 一直線上にないから )

確かに『科学実験』でそういった事象は確認できるけれど、『ベルヌーイ』を持ち出すのは誤り。
折角改定して新装したんだったら論争あるこういった文面はカットして、旧版の読者に向けてはなぜカットしたのか? を明確にすれば良いと思う。 カットしないんだったらしないで、ネット上に落ちてる異論記事に対して突っ込むべき。
じゃないと、この本がきっかけでベルヌーイの定理に興味を持っても『違う、誤りだ』と別から指摘されるだけになり、結局どれが正しいのかわからないままに終わる。
いや、マジでこの新装までにどこからも意見が飛んでこなかったの?

コラムにあるように、偉大な発明家・科学者たちが幼い頃の遊びなどから科学に関心を寄せていたように、この本に紹介される数々の『手品』の中には子ども達の未来へのエネルギーを励起するものだってあるかもしれない。
そして、それを願ってわざわざ新装までしたんだろうとも思う。 クリスマスの時期が新装版の初版ということは、ブルーバックスから子ども達への科学への興味というプレゼントともとれる。
その心意気は素晴らしいんだけれど、ベルヌーイを調べてしまったせいで、後味の悪い一冊になってしまった。
これって、本来はあってはならないことだと思うのよね……。

実験自体は面白いものも多く、実際に手品に使われるものもあったりするので、ベルヌーイにさえ触れなければ楽しめる。 子ども達は科学の不思議 ( といっても全て法則なんだけれど ) を見るだけでワクワクするはず。 数滴の牛乳で濁らせた水を傘用のビニール袋に詰めて口を縛り、寝かせて端から懐中電灯を当てて観察する光の波長と微粒子 ( ここでは牛乳分子 ) の饗宴とかは同じビニールに水を詰める行程でもバイオレンス感はないし、なんならその結果はなかなかオシャレ。 やってみたくなる。

それゆえに、前述の定理の件が惜しいなあ……と思うタイトルだった。